デボネア・リアル・エステート 傭兵は剣を抜き、ハイエルフは土地を転がす。 (GA文庫)
著者:山貝エビス
絵師:柴乃櫂人
【導入とあらすじ】
--かつて『双剣の餓狼(ダガーウルフ)』と呼ばれ、知らぬ者のない程に名を馳せた傭兵。青年ルーウィンは、訳あって空腹に耐えかね、職を探していた。
元々戦争孤児で身寄りも無い上、無一文と成り果てた最大の理由によって難航する事になる。なぜなら、彼の見た目は、十歳位の少年にしか見えなかったからだ。
最後に食べたパンは五日程前。空腹に耐えかね、条件の合いそうな求人広告に目を通していると、『下僕募集 年齢性別不問 あご あし まくら 恵んでやる』・・・あまりに酷い内容で、いつから貼り出されていたのか分からないような求人(?)だったが、背に腹は代えられなかった。
そして、不動産屋を営む傲岸不遜でケチなハイエルフの少女(?)デボネアと一見普通の人間と見紛う魔法人形(パペット)のココと出会う。本来は世俗に興味が薄く、欲が無いと言われるハイエルフ。しかし、デボネアは金を稼ぐ事に貪欲で、地上げ屋紛いの仕事ぶりだった。
徐々に見え始める、ルーウィンの抱える『若返ってしまった』事態の深刻さと解決への糸口。どうやら、訳ありな様子のデボネアとココ。
マイペースな雇い主達二人に、元伝説の傭兵で下僕の少年が加わり、それぞれが抱える問題は事態を大きく加速していく・・・。
【レビュー】
本作で、第8回GA文庫大賞前期奨励賞を受賞し、デビューとの事。
いつものように、フィーリングで選ばせて頂きました。個人的な判断基準は、タイトルとあらすじが七割、イラストが三割といった感じです。このイラストが占める割合は、大きいのか、小さいのか・・・、どうなんでしょう? でも、いつもこんな感じだと思います。
今作のポイントは、「各キャラクターの抱える背景」と言えると思います。かなり訳ありな三人が出会い、これまでゆっくりと流れていた事態が一転し、大きく動いていく事になります。
デボネアが金に執着する理由。デボネアとココの関係。ルーウィンの事態の深刻さと心境の変化。この三点がやはり印象に残っていて面白かったですし、最後まで焦点だったと思います。特に、終盤の弱っていくルーウィンとデボネアとの微妙な距離感がとても良かったです。今後シリーズ化するのであれば、やはり彼らの今後の人間関係が魅力になると思います。
逆にマイナス点を挙げると、「強い要素を盛り込み過ぎて、全体的な印象が薄くなってしまったように感じた」というのがまず一つ。
例えば、良かった点で挙げたキャラクター性ですが、特にデボネアがキツめのツンデレというより粗暴印象が強くなりすぎてました(笑) かなり強烈なセリフが多いのは良いんですが、もう少し心の機微を読者に「読ませる」演出が欲しかった所です。キャラを掴むのに苦労したという感じでしょうか? 何度も読み返していると逆に気付きづらい点かもしれません。
何となく訳ありで、どういうキャラなのか予想は付くんですが、ちょっと違和感で首を捻ってしまったシーンが勿体なかったです。厨二設定や戦闘シーンのセリフや演出も、もう少し薄めた方が逆に良かったのかな、と思う点です。
もう一つだけ挙げると、全体的に駆け足になってしまっていて、各エピソードが流れ作業のように感じてしまった事。各キャラの設定を説明する為のエピソードっていうのが見えてしまって、納得はするんだけど、なんかモヤモヤしました(笑) それならばむしろ、一部省くか謎を残すなりして、もう少し掘り下げたりギミックを増やしても良かったのかな、と感じました。
誤解の無いように敢えて書きますが、マイナス点をたくさん書いてしまったのは、今後の期待からです。
魅力的な部分がたくさん見えただけに、もう一捻りで人気作と勝負していけそうな期待感を持ってしまって、余計に悔しかったというのが本音。今後に大いに期待したい。